重症患者の栄養管理は一般病棟の栄養管理と異なる点が多数あります。
今回は一般病棟でも使える基本的な栄養管理の考え方(糖質、タンパク質、脂質の話)もお話します。
基本的なことも理解してもらって、ICUにおける急性期の栄養管理へとステップアップしていきましょう!
さらに経管(中心静脈)栄養の様々な素朴な疑問に答えていけたらと思います。
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※pptxファイルですので自由に編集して使って頂けます。
栄養の基本
まずは栄養の基礎的な知識から。

栄養の三大要素をまずは覚えましょう。
炭水化物は1gあたり約4kcal。タンパク質も1gあたり約4kcal。脂質は1gあたり約9kcal。
これを元にどんなメニューにするか考えます。
栄養の投与量と組成を考える
必要エネルギーを計算する
まず、その人の必要エネルギーを計算します。
方法は2種類あります。
◆カロリメトリを使う(間接熱量測定法)

挿管患者に関してはカロリメトリを用いて必要エネルギーを評価することができます。
- FIO2≦60%でないと不正確
- RR≦30回/分でないと不正確
- 薬剤や患者の状況によって変動するため数回の平均値を用いる
という注意点があります。使える状況であればこちらを使うことが推奨されています。
◆計算で求める
カロリメトリのない施設や、そもそも挿管されていない患者のことを考えたいときは多数ありますよね。
その時には計算で求めます。
計算方法は概算式を用いたものとHarris-Benedictの式・Wilmoreらの式を用いたものがあります。

概算式は割とざっくりした指標です。
が後述の計算はとても煩雑なため、私は概算式をよく使います。
また、肥満患者には補正体重を用いる点は注意してください。

こちらが煩雑なHarris-Benedictの式・Wilmoreらの式です。
こちらは性別、身長、体重、年齢を式に含めており、より正確とされています。
また患者のストレスファクターを乗じるので、さらに患者に即した計算ができます。
・カロリメトリを使えるときは使う
・使えないときは計算して必要エネルギーを決める
※医師しか使えないのですが、臨床支援アプリのHOKUTOが便利です。
各パラメータを入力すると簡単に目標カロリーを計算できます。
ガイドラインや他の計算・スコアも網羅されていて便利です。
登録時に招待コード「17JST」をご入力いただけると、とても喜びます!
各栄養素の割合を決める
炭水化物とタンパク質、脂質の割合を決めます。
糖質制限ダイエットが流行っていますが、患者さんには良いバランスの食事を提供しましょう。

◆タンパク質
タンパク質は通常1.0g/kg/dayが目標です。
重症患者は異化が亢進しているため多めに1.2~2.0g/kg/dayを目指します。
NPC/N比という概念もあります。
確認で使う感じでいいです。
通常150-200、重症患者は約100が目標です。
◆炭水化物
炭水化物は目標エネルギーの70%程度を目指します。
◆脂質

脂質は50-100kcal/dayを目指します。
※プロポフォールも脂質に含めて計算します。
・炭水化物は目標エネルギーの70%程度
・タンパク質は通常1.0g/kg/day、重症患者は1.2~2.0g/kg/dayを目指す
・脂質は50-100kcal/day
練習問題
では早速、練習問題を解いてみましょう。
60歳170㎝64㎏の健康な男性に関して、
・目標エネルギー(概算とHarris-Benedictの式&Wilmoreらの式の両方)
stress factor は mild starvationとして 0.85
・必要な三大栄養素の量
(タンパク質は1.0g/kg/dayで)
(脂質は100kcalの最大量で)
では計算してみましょう!
計算できた方は次の画像へ!
まずは必要エネルギーの答え合わせです。

いかがでしたか?
次から三大栄養素の答え合わせです。


必ずしも目標エネルギーピッタリになるとは限りません。
その時にはNPC/N比もみて考えましょう。
今回はNPC/N比に上げシロがあった
→非タンパク性のカロリーを増やしたい。
非タンパク性の炭水化物と脂質の内、脂質は既に極量→炭水化物で調節しよう。
と考えていきます。
さらに、そのタンパク質量は適切だったのか
を後日「窒素バランス」で確認します。

これで完成です。
経腸栄養
経腸栄養が可能な患者は極力早期(ICU入室24~48時間以内)に開始することが重要です。
経腸栄養が可能かどうかは以下の画像を参考にしてください。

腸蠕動音の聴取を慣習的に行っている施設もあるかもしれませんが必要はありません。
音が聞こえないからと栄養開始を遅らせるのはもってのほかです。
また、早期の経腸栄養の開始のメリットは以下の通りです。
- 腸管内腔から腸管粘膜を栄養、粘膜萎縮を阻止→バクテリアルトランスロケーションの阻止
- 腸管からの抗原抗体反応がT-like receptorを刺激、全身の免疫状態の保全
- 敗血症の合併率・入院期間の短縮・医療費の削減
◆中心静脈栄養
中心静脈栄養(PN: Parenteral Nutrition)に関しては経管栄養の補助的な使い方がベターです。
- 入室から1週間時点で経腸栄養での栄養の目標が達成できていない場合に考慮する
- 「栄養リスク」がある患者ではPNを併用、目標エネルギーの早期達成が予後を良くする可能性あり
「栄養リスク」に関しては後述します。
重症患者における急性期の栄養目標
さて、目標とするエネルギーやその組成・経腸栄養が大切ということはご理解いただけたと思います。
実際に投与する際には少量から開始します。

Over Feedingを避けるために少量の栄養から開始することが重要です。
まとめるとこんな感じです。
・まずは10~20ml/hで開始する
・入室7日目に目標カロリーの60-80%を目指す
・8日目以降は100%を目指す
・蛋白質は早期の目標達成を目指す(諸説あり)
・「栄養リスク」の高い患者はより早期のfull feedingを目指す
その他に気を付けること
栄養リスクの評価
ここまでちょこちょこ出てきている「栄養リスク」に関してお話します。
患者の栄養状態を評価しましょうという話です!
近年、患者の栄養リスクを入院時から評価することが重要視されています。
「栄養状態の評価」にアルブミンを参考にされている方もいます。
アルブミンは輸液の影響を受けやすく、半減期も21日と長いため急性期の評価には適しません。
一方、総リンパ球数は状態を鋭敏に反映すると言われています。
1200~800/μLは中等度栄養不良、それ未満は高度栄養不良とされます。
また、「栄養リスクの評価」にはNUTRIC scoreやNutritional Risk Screening(NRS2002)を用いることが推奨されてます。
下記にそれらを載せておきます。



これでリスクがあると評価されたら目標エネルギーの早期達成の検討の余地ありです!
持続栄養から間欠投与に変えるタイミング
下記を満たしたときに検討します。
また、胃管の先端が胃内にある事を確認してください。
レントゲンで椎体より患者の右側に先端があれば幽門を越えていると判断します。
間欠投与にする前に位置調節をしてください。
下痢のリスクになってしまいます。
- 急性期を脱している
- バイタルが安定している
- 誤嚥のリスクが少ない
下痢をしたら
多量の下痢は栄養吸収不良を招きます。
下痢があった場合には原因検索です!

感染性の否定をした上で、各対症療法をおこないましょう。
疾患別の栄養に関する注意点

腎機能が悪いときにはリーナレン
と聞いたことがある方もいると思います。
が、基本的に急性期はここまでお話した栄養管理で大丈夫です。
ただし下記3疾患には注意です。
- 急性膵炎…経空腸投与が望ましい
- 肝不全…治療抵抗性の肝性脳症の場合は経口でのBCAAを検討する
- 胃切除後…鉄・セレン・銅・亜鉛・葉酸・Vit.B1,12 ・Vit.D11の欠乏に注意する
免疫調整栄養剤n-3系脂肪酸
これは脂肪製剤の種類です。
- n-6系脂肪酸に比べて炎症反応惹起性が低い物質に代謝される
- n-6系脂肪酸と同じ酵素で代謝されるため競合阻害により炎症を抑える
- n-3系の代謝物自体も炎症を抑える可能性がある
という特徴があり、本邦では敗血症に限り弱く推奨されています。
が、採用施設は少ないのではないでしょうか…
使っている方は使用感をご教授願いたいです!
条件付き必須アミノ酸(グルタミン・アルギニン)
グルタミン酸は臓器や損傷部位の治癒に使用されるアミノ酸です。
アルギニンは創傷治癒に関わるアミノ酸です。
結論から言えば
外傷と熱傷患者ではグルタミンを強化した経腸栄養の検討を弱く推奨する。
アルギニンは周術期、頭部外傷、外傷症例での投与は検討してもよい。
程度になっています。
術前にアルギニンを摂取している病院は見かけますね。
ICU等で使っている施設があれば使用感をご教授ください!
血糖コントロール
血糖測定は安定するまでは1-2時間、安定すれば4時間ごとの測定が強く推奨されています。
目標血糖値は140-180mg/dLとします。
これより厳しい血糖管理でも予後は変わらず、低血糖の頻度が増えたとの報告があります。
小児は215mg/dL以下を目標とします。
また、持続栄養には持続インスリン投与を、間欠栄養には間欠インスリン投与が推奨されます。
リフィーディング症候群
リフィーディング症候群は飢餓状態の患者に急激な栄養投与が行われることで生じます。
急激にインスリンが分泌されリン・マグネシウム・Vit.B1が急激に利用されてしまい、「乳酸アシドーシス・心不全・不整脈・意識障害・肝障害・ショック」に至ります。
対応としては下記です。
発症しないように電解質をフォローしながら慎重に栄養を開始することが重要です!
- 「リスクがある症例」ではエネルギー投与前にVit.B1を投与開始する
- 「リスクがある症例」では5-10kcal/kg/dayから開始する
- エネルギーは電解質を見つつ増量する
またもや「リスク」がでてきましたね。
リフィーディング症候群のリスク評価に用いる(NICE criteria)を下記に記載します。

まとめ:重症患者の栄養の基本は早期の経腸栄養
早期の経腸栄養がとにかく重要です!
栄養リスクのない患者は最初は少なめのエネルギー量から開始し、栄養リスクを伴う患者は積極的栄養療法を考慮しましょう!
栄養を開始したら電解質やバイタルサインに注意!
栄養は少しマイナーでないがしろにされがちな分野かなと個人的には思います。
私は結構好きなのですが…(笑)
その分、特に意図もなく慣習的に行われていることも多いと感じます。
「発熱があるのですが栄養投与してもいいですか?」と聞かれたこともありました。
私たちも熱があっても何かしらは食べるし、食べて早く元気になろうって思いますよね?
これも慣習だったようです。
こういった分野から日々の臨床に疑問を持ち、慣習を変えていくことも大切だと思います。
もちろん慣習ではなく、意図がある場合もあります。
ただ、大切なのは「自分の知識を常にアップデートして疑問をもつ」ということです。
アップデートした知識を現場に持ち帰り、ディスカッションを重ねることがより良い医療に繋がると信じています。
一緒に頑張っていきましょう!
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参考文献:
TheICUBook 第4版
重症患者管理マニュアル
集中治療ここだけの話
日本版重症患者の栄養療法ガイドライン
–総論(2016/3/18)
–病態別栄養療法(2017/9/21)
ASPEN
ESPEN
日本集中治療医学会専門医テキスト第3版
救急診療指針改定第5版
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