【JATEC】高エネルギー外傷診療の基本【重症外傷対応に自信が持てる!】

ER経験が浅いと高エネルギー外傷が怖いですよね。
派手な外傷だと頭が真っ白になりがちです。
今回はJATECに準じて、重症外傷の診療のレクチャーを行いたいと思います。
これをマスターすれば標準的な外傷診療はできるようになります!!

ERや当直に入る研修医、内科系の先生におすすめの記事です!
看護師さんも一回読んでいただくと何となく流れがつかめるのでおすすめです!

※完全版の全スライドをnoteで販売しています、講義用スライドをお求めの方は是非!
※pptxファイルですので自由に編集して使って頂けます。

目次

高エネルギー外傷とは

そもそも高エネルギー外傷がどのようなものを指すのかというと

  • 同乗者の死亡した単独事故
  • 車外に放出された車両事故
  • 車の高度な損傷を認める車両事故
  • 車に轢かれた歩行者・自転車事故
  • 5m以上 or 30km/h以上の車に跳ね飛ばされた歩行者・自転車事故
  • 運転手が離れていた or 30km/h以上のバイク事故
  • 6m以上 or 3階以上からの墜落(小児は身長の2-3倍の高さ)
  • 体幹部が挟まれた
  • 機械器具に巻き込まれた

となっています。

外傷患者の死亡の内、24時間以内に亡くなる方が多いのですが、
即死である「脳損傷と大血管損傷」は救急医には救えません。

救急医が救わなければならないのは
受傷から2-3時間でなくなる「呼吸障害と出血死」です。


では、これから患者を救うためのレクチャーをはじめましょう!

JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)

JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)のガイドラインは外傷診療に関わる全ての医師のためのガイドラインです。
これを習熟して、外傷診療に役立てましょう!

JATECは4つの構成要素からなります。

  • 収容依頼から第一印象
  • Primary survey(PS)…生理学的異常の認知
  • Secondary survey(SS)…解剖学的異常の認知
  • Tertiary survey

では一つずついきましょう!

収容依頼から第一印象

収容依頼

こんな感じで救急隊から連絡がありますよね、まずどうしますか?
そうです!MISTの確認と人員の確保です!

いきなりMISTといわれても困惑する方もいますよね。MISTとは

  • M(Mechanism)…受傷機転
  • I(Injury site)…受傷部位
  • S(Sign)…バイタルや症状
  • T(Treatment)…行った処置

の頭文字です。
これらは救急隊から必ず聴取しましょう!

そして人員の確保です。
MISTを共有、必要な物品を準備しましょう!
また、感染予防も指示します。

「スタッフの方集まってください、MISTは~です。」
「キャップ、ゴーグル、マスク、手袋、ガウンを装着して下さい。」
「ポータブルX線、エコー、蘇生用具一式、39度に加温した乳酸リンゲルを用意してください。室温は29度にしてください」

といった感じですね。

・収容依頼があったらMISTの聴取
・スタッフを集め、MISTの共有と感染対策や準備をはじめる

第一印象

とその前に…
JATECではABCDEの順で評価・介入する決まりになっています!

さあ、そうこうすると患者が到着しました。
救急車まで迎えに行って評価を開始します!

第一印象は救急車~初療室につくまでの15秒以内で行います!

パパっと評価し、スタッフに伝えます!

「末梢が冷たくて橈骨動脈も弱いです!Cの異常が疑われます!」

というふうに。情報共有は大切なので、どんどん声に出していきましょう!

・ABCDEの順で評価・介入
・第一印象は15秒で評価

Primary survey(PS)

PSで必要なこと

先ほどもお話しましたが、ABCDEの順で評価・介入していきます!
このPSでは生理学的異常に的を絞って評価していきます。

ところで、PSで評価していくのに必要な検査ってとても少ないのです。

  • 胸部・骨盤部単純X線写真
  • FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)
  • (血液検査)

そうです、ここで大切なのは身体診察です!
しっかり身体診察のスキルを磨きましょう!

ちなみに、PSで生理学的異常を見つけたときに介入に用いる手技は

  • 気管挿管
  • 輪状・甲状靭帯穿刺(切開)
  • 胸腔ドレナージ
  • 心嚢穿刺
  • 静脈路確保、骨髄内輸液路の確保
  • 骨盤の固定(シーツラッピング、サムスリング®)

たったこれだけ!習熟しておきましょう。

また、PSで必ず徹底して欲しいことを下に記すので覚えておいてください!

・途中でバイタル変化があれば必ずAに戻って評価をしなおす
・処置や体位を変える前後はバイタル確認

それでは患者さんはバックボードに固定されているので、外していきましょう。

必ず「安静を保てることを確認して頭から」ですよ!
いきなり体幹から外して暴れられると収集がつきません。
外傷も悪化しますしとても危険ですよね!

では、看護師さんに初療開始前の決め台詞を言って診察を開始しましょう!

「酸素投与(COPD患者でもリザーバー10L)してください。バイタル測定して出たら教えてください。ルート確保お願いします!!」

A: Air way(気道)の異常

Aの異常のポイントは単純明快です。

  • 発語があれば気道は開通!Bに進む
  • 怪しいなと思ったら吸引・気道確保
  • それでもだめなら気管挿管

「大丈夫ですか?」と聞いてみて「はい。」と言ってくれればは終了です。

気道確保の引き出しも持っておきましょう。
ゴロゴロ言っていればまずは吸引
それでもだめなら下顎挙上です。
それでもだめなら経口・経鼻エアウェイも検討します。

ここまでやってもだめなら気管挿管ですね!
明らかに気道が開通していないときも早く挿管してしまいましょう。
挿管の閾値は低めにしておくのがベターです。
挿管時に準備するものはこちらの記事も参考にしてください。

また、頸椎保護にはしっかり留意します。

挿管成功かの判断方法も一度確認しましょう。

  • 換気をして胸郭の上りをみる
  • 5点聴診
  • チューブの曇りの確認
  • EtCO2モニタで確認

EtCO2モニタが最も信頼できるのでしたね!

さて、その場で最も熟練した医師が2回挿管を行っても困難だった場合は輪状甲状靱帯切開(穿刺)に進みます。

13歳以上なら輪状甲状靱帯を切開し、ペアンで広げてID6mmの挿管チューブを挿入します。
12歳以下なら輪状甲状靱帯穿刺が第一選択です。

介入を終えたら再度Aの評価をして気道が保たれていることを確認します。
OKならBの評価へ!

・発語があればAはOK
・怪しければ気道確保
・挿管を2回試みてダメなら輪状甲状靱帯切開(穿刺)

B: Breathing(呼吸)の異常

Bの異常では緊張性気胸とフレイルチェストを見逃さないことが重要です。
緊張性気胸は、気胸がひどすぎて心臓が拡張できず閉塞性ショックを起こした状態です。
重度の気胸+血圧低下で診断とします。

フレイルチェストは多発肋骨骨折により、吸気時に陰圧をかけられなくなり換気が困難になる状態です。
これに関しては動画をみていただくとわかりやすいです!

左のフレイルチェストですね。
吸気時に右は胸郭が上がっているのに、左は陥没してしまい息が吸えていません。

この二つを見逃さないのがBの目標です!

では早速身体診察をしていきましょう!
観察項目は以下。

  • 頸部: 呼吸補助筋の使用、頸静脈怒張、気管の偏位、皮下気腫
  • 胸部: 視診、聴診、触診、打診

これらに異常があれば気胸の存在を疑います。

頸部の観察をする際には、だれかに頭部保持をしてもらいながらネックカラーを外します。

また、気管の偏移の確認に喉をさわる方もいますが、必ず胸骨切痕付近です!
気胸の診察ですから、肺に近い方から気管も偏移しますよね!

胸部の視診で胸郭挙上の左右差や陥没があればフレイルチェストを疑います。

診断がつけば介入をしていきましょう!
気胸に対しては胸腔ドレナージです。

また、血液が多量に出てくる場合には開胸止血術も検討しなければいけません。

  • 初回穿刺時に1000ml以上の排液
  • 2~4時間持続する200~300ml/hの排液
  • 排液開始後1時間で1500ml
  • 持続する輸血が必要

上記のときには外科医師に相談しましょう。

フレイルチェストに関してはバストバンドや用手圧迫、挿管で介入します。
気胸も併発している場合には胸腔ドレナージをしないと増悪するので気を付けてください!

・緊張性気胸とフレイルチェストを見逃さない
・緊張性気胸は重度の気胸+血圧低下で診断
・フレイルチェストは動画をみて確認!

介入を終えれば、Bの異常は介助されたか確認してCの異常にすすみます!

C:Circulation(循環)の異常

ここでは、ショックの認知と原因検索・介入を行います。

ショックの認知はSkin・HR・Outer breading(外出血)・CRT・Ketsuatsuで行います。
頭文字がSHOCKなので覚えやすいですね!

外傷時のショックの原因は出血性ショックが多いですね。次に閉塞性ショックです。
これらは肌は湿って冷たく、頻脈になります。

神経原性ショックは肌は温暖で徐脈ですね。

体表を観察して活動性の出血がないか確認します。あれば圧迫止血しましょう。

CRTは爪を5秒押して2秒以内に色調が戻ればOKです。
lactateと良い相関があり重要な身体所見です。


血圧は言わずもがなですが、循環動態の異常は血圧に反映される前にHRや末梢の静脈がしまって代償します。
血圧が維持できているから安心ではない
ことに注意してください!

次に原因検索と対応です。FIX-Cで覚えます。

  • FAST(Focused Assessment of Sonography for Trauma)
  • i.v(輸液)
  • 胸部・骨盤部Xp
  • Compression(圧迫)

FASTは低侵襲で素早くできる評価方法です。
繰り返し行えるのも強みですね。
一分以内にできるように練習しましょう!

i.vは輸液です。「初期輸液療法」でさらに介入が必要か評価します。

初期輸液療法
成人には1000ml(小児には体重×15-20ml)の細胞外液を15-20分かけて投与。
2回行ってもショックを離脱できないときにはnon-responder shockとして下記対応
・輸血(RBC:FFP:PLT=1:1:1U or2:1:1U)
・挿管
・止血術

といった具合です。

胸部・骨盤部Xpではショックの原因となり得る所見のみを確認します。
胸部Xpでは気胸・多発肋骨骨折・(肺挫傷)
骨盤部Xpでは不安定型骨盤骨折を確認します。

骨盤骨折があった場合は内旋固定やサムスリングを用います。

サムスリングは大転子部に巻きます!
意外と知らない人が多いです。

また、出血性ショックを見たらトランサミンとカルシウム補充を検討しましょう!

トランサミンは受傷3時間以内の投与であれば予後を改善する可能性があります。
1gを10分かけて投与した後、8時間かけてさらに1g投与します。

カルシウムは凝固に関わる重要な因子ですが、輸液での希釈がおこってしまいます。
また、輸血中のクエン酸製剤の影響でも低下するため補充しましょう。

・ショックの認知はSHOCKで!
・原因検索と介入はFIX-Cで!

介入を終え、ショックを離脱したらDに進みましょう!

D:Disfunction of CNS(中枢神経の異常)

ここでは切迫するDを見つけます!

通常はSSの最後にCTをとるのですが、切迫するDがあった場合はSSの最初にCTをとります。
GCSも一応のせておきますね。

・切迫するDを探す!
・見つけたら挿管・脳外科call・SSの最初にCT!

また、外傷による頭部の直接損傷は起こってしまうとできることは増悪の予防になります。
その辺は集中治療領域になるのですが、参考に記載しておきます。

E:Exposure &Environmental control(脱衣と体温管理)

脱衣しないと低体温からの復温が困難です。
必ず脱衣しましょう。
また室温管理も大切です。
輸液や輸血も加温しましょう。

これでPSは終了しました!
総括をスタッフに伝えましょう!

「患者様は~で受傷されて救急搬送されました。第一印象は~に異常があると考え、PSで~の異常を認めたため~に対し~を行いました。」

AMPLE聴取

無事PSが終了したらSS!といきたいところですが、その前にAMPLEを聴取しましょう。

  • A:allergy(アレルギー)
  • M:medication(内服薬)
  • P:past history & pregnancy(既往歴と妊娠)
  • L:last meal(最終食事)
  • E:event(受傷機転)

Secondary survey(SS)

SSでは改めて全身の診察を行います。

頭頂部からつま先まで、穴という穴も全て診察します。
背面観察や神経学的所見もとりましょう。

部位別にポイントや忘れがちなところを記載しておきます!

頭頚部

身体診察で忘れがちなのが、頭痛、視力低下、複視、聴力障害、咬合障害、口腔内の観察、耳鏡を用いた観察、嗄声です。

鼻出血があり、頭蓋底骨折が疑われる場合はダブルリング試験を行いましょう。
頸部の観察はBの評価でおこなったように介助者に頸部保持をしてもらいます。
後頸部は棘突起の圧痛を中心に評価してください。

胸部

胸部は心電図で心筋挫傷(不整脈)とレントゲンの見直しをします。
レントゲンは「気(き)胸(きょう)縦(たて)横(よこ)骨(こつ)軟(なん)チュー」
の語呂合わせで確認していきます。
「気道・胸腔・縦郭・横隔膜・骨・軟部組織・チューブ」のことです。

肋骨は一本ずつふれてください。
EFASTで気胸と肺挫傷を確認します。

骨盤・生殖器・会陰・肛門

直腸診は必ず行いましょう!
肛門括約筋の収縮を確認するときは「球海綿体反射」も使えます。
直腸診をしながら亀頭 or 陰核をつまむと肛門括約筋が収縮します!

背面観察

脊損疑いでは省略して神経学的診察を優先させましょう!

神経学的診察

再度、意識・瞳孔・四肢の神経学的所見を評価します。
下記所見では脊損を疑います。

  • C4:鎖骨より上部のみの痛み刺激に反応、腹式呼吸
  • C6:肘を屈曲はするが伸展はしない
  • 深部腱反射消失、四肢弛緩、肛門括約筋緊張低下
  • 持続勃起症
  • 神経原性ショック(血圧低下、徐脈、皮膚が温かい)

その他

骨折部位のXp等必要な画像検査や創処置、破傷風トキソイド投与を忘れずに。
創の状態次第では抗菌薬も投与しましょう(最長でも3日まで)。

最後に見落とし確認のFIXESを確認!

造影CT&読影

全身の診察を終えたら画像にいきましょう。
PATBED2Xを見逃さない様に!

Pulmonary contusion肺挫傷
Aortic rupture大動脈損傷
Tracheobronchial rupture気管/気管支損傷
Blunt cardiac contusion鈍的心損傷
Esophageal rupture食道損傷
Diaphragmatic rupture横隔膜損傷
Pneumothorax気胸
Hemothorax血胸

画像、身体診察上頸椎に問題がなければネックカラーを外します。
もう一度頸部痛、四肢麻痺や感覚異常を確認します。
愛護的に外して患者自身で首を前後左右に動かしてもらいます。
症状が誘発されなければOKです!

Tertiary Survey

翌日、SSをもう一度行って見落としがないか確認します!
以上でJATEC終了です!
長丁場お疲れ様でした!!

まとめ:JATECを習得して外傷診療に挑もう

JATECの内容を概ね説明しました!
長かったですがこれを読んで外傷診療に挑んでくれる方が増えると嬉しいです!

興味があればJATECのコースを受けてみてください。
実際に必要な手技の講習があり、色々な症例を用いて実践形式で勉強できます。
急変する症例脳外科医が乗り込んでくる症例もあって楽しいですよ!

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この記事を書いた人

一児の父┃救急専門医┃集中治療専門医
自分の学習内容のアウトプット、講義資料の共有をしたい!
という理由でブログを開設しました。

Twitterやインスタでミニレクチャーをしています🔥
noteでは講義資料も掲載しています📝

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