SAT/SBTで早期抜管&予後改善!再挿管は予後悪化!【ABCDEバンドル】

挿管患者の早期人工呼吸器離脱は患者予後を改善します。
一方、早期抜管を急ぎ再挿管に至ると患者予後は悪くなります。

適切なタイミングや準備をして早期抜管・早期離脱を目指しましょう!

また、そのためには日々の適切な管理や評価が必要不可欠です!
主治医の方針決定も大切ですが、看護師のケアやマンパワーも必要です。
毎日のSATやSBT(詳細は後述)の最中にトラブルがあったとき、周囲にスタッフがいなかったら非常に危険ですからね!

今回は”人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル”をベースに、早期抜管への向かい方をレクチャーします!

※完全版の全スライドをnoteで販売しています、講義用スライドをお求めの方は是非。
※完全版では気道リスク毎の抜管準備等、ブログに書ききれなかった内容も含まれるので興味があるかたは読んでみてください。
※pptxファイルですので自由に編集して使って頂けます。

目次

早期抜管のメリット

早期抜管を達成することで

  • VAP:ventilator-associated pneumonia(人工呼吸器関連肺炎)の減少
  • 死亡率の改善
  • ICU滞在期間の短縮

が期待できます。
”人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル”内にも下記のような記載があります。

人工呼吸療法にたずさわる医療従事者は、患者が人工呼吸器を装着した段階から、原疾患の治療と並行して「人工呼吸器からいかに早期に離脱させるか」を計画することが重要

ということで一緒に勉強して、適切な早期抜管を目指しましょう!

早期抜管を達成するには?

日々離脱に向けて多職種チームで評価し離脱過程を進めることが重要です!
そのために人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコルが策定されました。
このプロトコルを参考に各施設に合った形でプロトコルを作ることが推奨されています。

この人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコルに少し補足して解説します!

再挿管の危険性の再確認

再挿管はある程度起きるのが適切です。
全く起きない施設があれば、それは離脱に消極的過ぎる可能性があります。

抜管は命がけです。再挿管できなければ患者は心停止に至ります。
また、再挿管が無事できても患者予後は悪化する可能性があります。

再挿管は特に呼吸循環に悪影響を与えます。
肺炎、ICU期間、ICU死亡率、長期療養施設への転院率が増加するとの報告もあります。

抜管後呼吸不全が再挿管の原因になります。
抜管後呼吸不全は抜管後48~72時間以内に発症した呼吸不全を指します。
頻度は12-48%になるとの報告があります。

しかし、呼吸不全が生じてもNPPVやHFNC、ボスミン吸入で逃げ切れることもあります。
したがって、再挿管率は発症頻度より減って12~14%と言われています。
※事故抜管だと再挿管率は約50%とも

適切な評価をしている施設での再挿管率は12~14%
これを聞いてどう感じましたか?
少ないと感じた方は抜管を急ぎすぎている可能性があります。
逆に多いと感じた方は遅すぎる可能性があります。
遅すぎるのもICU-AW:ICU-acquired weakness(ICU関連筋力低下)の原因になるので避けたい所です。

また、原因は2つに大別できます。

  • 気道の問題(抜管不全):Extubation failure
    気管チューブがないと気道のトラブルが生じるもの
    例)上気道閉塞、気道クリアランスの低下、舌根沈下、喉頭浮腫など
  • 呼吸機能の問題(離脱不全):Liberation failure
    人工呼吸器の補助がないと酸素化や換気を維持できないもの
    例)肺疾患、心不全、神経筋疾患、呼吸筋疲労など

抜管後はこれらにできるだけ早く気付かなければなりません。
臨床的な所見でいえば、

  • 上気道狭窄
    →シーソー呼吸、イビキ様呼吸(舌根沈下)
    →吸気時喘鳴(喉頭浮腫)
  • 酸素化の悪化
    →SpO2、PaO2の低下
    →湿性ラ音、気道分泌物増加(肺水腫)
  • 呼吸筋疲労、換気不全
    →頻呼吸、浅呼吸、冷汗、せん妄
    →呼吸補助筋の使用↑
    →PaCO2↑、pH↓(急性呼吸性アシドーシス)


これらに早く気付き介入しなければなりません!

実はシーソー呼吸とか呼吸補助筋とか自信ないな…

という方もいると思いますので動画を用意しました!
まずはシーソー呼吸です!
ちなみに英語ではparadoxical breathingといいます!

通常の呼吸では吸気時に胸腹部は膨らむように動きます。
上気道閉塞の存在下では吸気時に腹部は凹みます。
これがシーソー呼吸!

次に呼吸補助筋です、吸気と呼気で使用する筋肉は違います!

吸気時は胸鎖乳突筋と斜角筋ですね!
呼気時に使用するのは内肋間筋、外腹斜筋、腹横筋、腹直筋です!
実際に下の動画で確認しましょう。

ということで再挿管にならないよう、しっかり評価して抜管に臨みましょう。
では、抜管までの評価と抜管後の評価を解説します!

SATの前に…

SATの前に…
SATやSBTを毎日行うのは下のようなイメージです。

MVが必要なラインを越える呼吸仕事量が必要になると挿管されます。
病勢がピークを迎え改善傾向になったらSAT/SBTを連日行い、適切なタイミングを測ります。

早すぎると再挿管のリスク、遅すぎるとICU-AWのリスクですね。

ではSATの前に「SATに進めるか」スクリーニングです。

  • 興奮状態が持続し、鎮静薬の投与量が増加している
  • 筋弛緩薬を使用している
  • 24時間以内の新たな不整脈や心筋虚血の徴候
  • アルコール離脱症状のため鎮静薬を持続投与中
  • 頭蓋内圧の上昇
  • 医師の判断(ARDSで肺保護換気を24時間はしたい…等)

これらに一つも当てはまらなければSATに進みましょう!

SAT:Spontaneous Awakening Trial(自発覚醒トライアル)

まずか覚醒度が抜管に適しているのかを確認します。
鎮静薬を漸減や中断しRASSスケールで評価します。
当院では中断することが多いです。
RASSスケールも参考に張っておきますね!

鎮痛薬は中止する必要はありません。
覚醒させた時のチューブの刺激を思えば鎮痛薬を残してあげた方が優しいです。
観察時間は30分から4時間程度にします。

そして下記の状態を認めればSATはクリアとし次に進みます。

  1. RASS:-1~0
    口頭指示で開眼や動作が容易に可能
  2. 鎮静薬を中止して30分以上過ぎても、以下の状態とならない
    興奮・持続的な不安
    鎮痛薬で疼痛のコントロールができない
    頻呼吸(呼吸数≧35回/分が5分間以上)
    Sp02<90%が持続し対応が必要
    新たな不整脈

また、SATを行うと加算がとれるので積極的に導入してください。

SBT前のスクリーニング

これは項目が多いので一旦画像を提示します。
busyな画像で申し訳ないです。

多少酸素化が悪くてもOK!
多少カテコラミンを使っていてもOK!

なところに注目してください。

呼吸補助筋の使用やシーソー呼吸は上にのせている動画で確認してください!

SBT:Spontaneous Breathing Trial(自発呼吸トライアル)

SBTは人工呼吸による補助がない状態に耐えられるか確認する試験です。
人工呼吸器設定をCPAPかTピースに変更し、30minから2h観察します。

CPAPで30分 vs. Tピース2時間 を比較した試験では、CPAPで30分が再挿管率が低かったです。
これからいえるのは「少なくとも厳しくすれば良いというものではない」ということです!

FIO2≦50%,CPAP≦5cmH2O(PS≦5cmH2O) orTピース30分間継続にして約30分観察します。
120分以上は継続しないでください。
で下記を満たせばSBTクリアです。

  • 呼吸数<30回/分
  • 開始前と比べて明らかな低下がない(たとえばSpO2≧94%、PaO2≧70mmHg)
  • 心拍数<140bpm、新たな不整脈や心筋虚血の徴候を認めない
  • 過度の血圧上昇を認めない
  • 以下の呼吸促迫の徴候を認めない(SBT前の状態と比較する)
  • 呼吸補助筋の過剰使用、シーソー呼吸、冷汗、重度の呼吸困難感、不安感、不穏

SBTをクリアしたら気道リスクを評価して抜管に向かいます。

気道リスクの評価

下記の気道閉塞の危険因子が複数あったり明確な場合にはカフリークテストを行います。

  • 長期間の挿管>48時間
  • 大口径の気管チューブ(男:>8mm、女:>7mm)
  • 女性
  • 挿管困難、侵襲的な挿管操作(複数回の盲目的挿管など)
  • 気管チューブの固定不良、鎮静の不足(不穏)
  • 刺激物の誤嚥、気道熱傷
  • 外傷

主に刺激による上気道の浮腫のリスクを評価しています。

カフリークテストの方法は

  • ①誤嚥を防ぐため口腔内吸引、気管吸引を十分に行う
  • ②人工呼吸器設定は調節呼吸(A/C:Assist Control)とする
  • ③カフを入れた状態でVT1を記録
  • ④気管チューブのカフを抜く
  • ⑤患者の呼吸が安定した6呼吸のVTを記録 
  • ⑥その値の内低い3回の値の平均値VT2を算出

(VT1-VT2)が110ml以下もしくは(VT1-VT2)/VT1が10%以下だと陽性です。
陽性の場合、抜管後上気道狭窄の発生が予測されます。
したがって抜管の決定は多職種の協議により行うことが望ましいです。

このカフリークテストの目的は抜管後上気道狭窄のリスクの判別です。
これは陽性だから抜管できないわけではありません。
感度は高いが特異度は高くなく、方法も施設間で多少異なります。

カフリークテスト陽性であればステロイドの使用も検討します。
抜管12時間前から mPLS 20mg q4h i.v.
抜管4時間前 mPSL 40mg i.v.
といったレジメンです。

また、抜管後に喉頭浮腫が示唆される場合は
エピネフリン吸入(1mg/5ml 生食で希釈)
ステロイド吸入(ブテゾニド 1mg)
mPLS 40mg i.v.(効果発現は数時間後)
を行うこともあります。

これで再挿管を免れることもあります。
一方、粘りすぎて再挿管の時期を逸すると患者予後を非常に悪化させます。
そのため、適切に再挿管の判案をすることが重要です。

抜管後の評価

抜管後は、全ての症例に再挿管のリスクがあると考えて対応します。
また、上気道閉塞に備え迅速な対応が可能な準備をしておきます。
具体的には緊急気管切開の準備や術者との事前連携等です。

抜管後1時間は15分毎に下表(血液ガスを除く)の項目を評価します。
動脈血液ガス分析はリスクの高い症例では抜管後30分の時点で実施します。

ひとまず抜管までの手順は以上です。

ABCDE(FGH)バンドルは早期抜管に必要不可欠!

挿管=深鎮静としている先生もみかけます。
そういった症例ではリハビリも進まないです。

バイタルが安定しているならRASS-2~0ぐらいで管理したいものです。
そういったことを網羅的に示したのがABCDE(FGH)バンドルです!


特にABCDEの部分に絞って説明します。
まず、ABCDEバンドルの遵守により生存率、人工呼吸器期間、身体抑制率、ICUの生存退院率、ICU再入室を優位に改善させるとの報告があります。
ではABCDE(FGH)を一覧で確認しましょう!

  • A:Awaken the patient daily sedation cessation(毎⽇のSAT)
  • B:Breathing: daily interruptions of mechanical ventilation(毎⽇のSBT)
  • C:Coordination: daily awakening and daily breathing(A+B の毎⽇の実践)
  • C:Choice of sedation or analgesic exposure(鎮静・鎮痛薬の選択)
  • D:Delirium monitoring and management(せん妄のモニタリングとマネジメント)
  • E:Early mobility and exercise(早期離床)
  • F:family involvement(家族を含めた対応)
  • F:follow-up referrals(転院先への紹介状)
  • F:functional reconciliation(機能的回復)
  • G:Good handoff communication(良好な申し送り伝達)
  • H:Handout materials on PICS and PICS-F(PICSやPICS-Fについての書⾯での情報提供)

ABCはここまでで既にお話しました。

特にEの早期離床はマンパワーも必要で難しいですが大切です。
人工呼吸患者に関して早期離床は、ADL、MV期間、ICU滞在期間を改善します。
鎮静中断も合わせることでせん妄も改善する報告があります。

挿管患者やECMO患者でも歩行訓練を行えます。
当院ではECMO患者の歩行は行ったことはないですが、挿管患者ではしばしば行っています。
早期離床が行えずICU-AWに至った場合は長期予後が悪化します

栄養も大切です栄養状態の悪い患者では呼吸筋疲労の発生率も高くなります。
重症患者の栄養管理に関してはこちらも参考にしてくだい。

まとめ:適切に評価しリスクの低い早期抜管を目指そう!

早期抜管には適切なICU管理(ABCDEバンドル)の遵守が必要です。
その為にはマンパワーも必要ですし、スタッフの教育も必要です。
また主治医の適切な方針決定が必要です。

ICU領域の知識は比較的新しいものが多く、ICU専門医以外には受け入れられないことも多数あります。
適切なICU管理を正しく広め患者予後を改善できるように啓蒙していきましょう!

※完全版のスライドをnoteで販売しています、講義用スライドをお求めの方は是非。
※完全版では気道リスク毎の抜管準備等、ブログに書ききれなかった内容も含まれるので興味があるかたは読んでみてください。
※pptxファイルですので自由に編集して使って頂けます。


早期抜管には普段の人工呼吸管理も重要です!
下記の記事も参考にしてください!

あわせて読みたい
【少しマニアック】人工呼吸器の非同調【気づき、対応して予後改善へ!】 今回は応用編として、「人工呼吸器の非同調」を紹介します。少しマニアックです(笑)非同調は気付くのが初めの一歩です!「本気の」人工呼吸器設定に挑戦しましょう!非...
あわせて読みたい
【簡単に理解する】人工呼吸器管理の基本【モード決定やパラメータ設定】 人工呼吸器ってモードが沢山でよくわからないし、むずかしそう… という方は是非この記事を読んでください!基礎的な人工呼吸器のモードの違いや、各パラメータに関して...

参考文献:
人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル
日本集中治療医学会専門医テキスト第3版
Up To Date: Extubation manegiment
Crit Care 2015;19:295
CCM 2011;39:2612
CHEST 1997;112:186
CCM 2011;39:2612
CCM 2019;47:3-14

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

一児の父┃救急専門医┃集中治療専門医
自分の学習内容のアウトプット、講義資料の共有をしたい!
という理由でブログを開設しました。

Twitterやインスタでミニレクチャーをしています🔥
noteでは講義資料も掲載しています📝

コメント

コメントする

目次