
人工呼吸器ってモードが沢山でよくわからないし、むずかしそう…
という方は是非この記事を読んでください!
基礎的な人工呼吸器のモードの違いや、各パラメータに関して説明します。
これを読めば「基本的な」呼吸器の設定はできるようになります。
「本気の」呼吸器設定が出来るようになりたい方は次の記事も読んでください。
※本文中では上付き文字や下付き文字ができなかったのでご容赦ください。
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※pptxファイルですので自由に編集して使って頂けます。
人工呼吸器管理の適応
非常に基本的ですが大切なこと、「適応」に関してです。
今回は呼吸に関しての適応を一覧でお見せします。
「挿管」の適応となると他にもAirwayの異常やnon-responder shock等沢山あるので別です。
挿管管理と人工呼吸器管理は別の概念なので注意してください。

他にも、「集中治療医の頭に必要性がよぎったら」という方もいますね。
人工呼吸器の初期設定

まずは初期設定です。設定項目は「酸素化」と「換気」に分けて考えます。
「酸素化」はSpO2やPaO2で測れますね。「換気」はEtCO2やPaCO2で見ることができます。
例えば、「酸素化」が悪くなっているのに呼吸数を変更するのは意味がありません。
・人工呼吸器の設定は「酸素化(SpO2)」と「換気(EtCO2)」にわけて考える
・「酸素化」を規定するのは「PEEP」と「FIO2」
・「換気」を規定するのは「一回換気量」と「呼吸数」
モードの選択
人工呼吸器のモードは沢山あってややこしいです。
しかも機種によって呼び方が微妙に異なるので、なおややこしいですね。
皆さんの施設で使っている機械では、どのモードがそれぞれに相当するのか確認しておいてください。
ひとつづつ整理していきましょう。

まず、調節換気(CMV: Controlled Mechanical Ventilation)の備わったものと備わっていないもの(補助換気のみ)にわけられます。
調節換気というのは、呼吸のない患者に対し強制的に空気を送り呼吸させる機能です。
強制換気ともいいますね。
CMVはさらに、A/C: Assist/ControlとSIMV: Synchronized Intermittent Mandatory Ventilationに分けられます。
A/Cは自発呼吸の有無にかかわらず同じような圧サポートをしてくれるモードです。
SIMVは決められた回数の呼吸はサポートしますが、それを越えた自発呼吸はサポートしてくれません。
さらに、A/CやSIMVのなかでVCV: Volume Control ventilationとPCV: Pressure Control Ventilationにわけられます。
VCVは一回換気量(VT)を直接設定するモードです。PCVは吸気圧を設定することでVTを設定するモードです。
補助換気は後程説明します。
ざっと説明しましたがよくわかりませんよね。
沢山あって訳が分かりませんが、上の図と見比べながら一つずつ整理していきましょう。
CMV:Controlled Mechanical Ventilation

CMVの特徴として、吸気時間を設定することができます。
したがって自発呼吸のない患者にも使えます。
適切な設定をすれば患者にとって優しい呼吸器設定ができます。が非同調も起こりやすいです。
・CMVは自発呼吸のない患者につかえる
・非同調がおこりやすいため注意が必要
PSV:Pressure Support ventilation

PSVの特徴は吸気の終了を吸気時間ではなく、吸気流速で決めるところです。
患者さんが2秒かけて息を吸いたいのにCMVで1.5秒の設定になっていたら、
「もうちょっとすいたいのにー、あと少し補助してよー」と、最後の0.5秒が苦しくなってしまいます(吸気努力がふえてしまう)。
PSVのように「吸気流速がpeakの何%以下になったら吸気終了になる」という点は同調性に関して非常に有利です。
「そろそろ吸い終わるかー」と吸気の速度が遅くなると自然にサポートを中止してくれます。
そのかわり、無呼吸の患者や、呼吸数で換気量を担保したい(自発呼吸より沢山呼吸数を稼ぎたい)患者には使用できません。
心不全患者によく装着しているNPPV:non-invasive positive pressure ventilationもこのモードです。自発呼吸がありますからね。
ではつぎからCMVに分類される設定をみていきます。
SIMV:Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation

SIMVは設定した換気回数のみ調節(強制)換気を行い、それを越えた呼吸にはPSVを行うモードです。
呼吸数を16回/分にしていて、患者に20回/分の自発呼吸があった場合4回がPSVで補助されます。
これは2種類の補助が入ることになるので患者には不親切ですね。
これは患者の呼吸に負担をかけることに繋がります。
今なおSIMVの設定を愛用する医師もいますが、A/Cに勝る部分はないと思っていいです。
また抜管に向けてA/C→SIMV→CPAP(+PS)と設定を変更する医師もいます。
がそれはむしろ患者の負担を増やすだけで良くないことになっています。
A/Cで十分に呼吸状態がよくなればCPAP(+PS)でSBTを行うのが望ましいです。
抜管に向かうときに考えることもその内記事にしようと思います。
A/C:Assist/Control

これは設定した呼吸数を越えた呼吸も全てサポートしてくれるモードです。
呼吸数を16回/分にしていて、患者に20回/分の自発呼吸があった場合も全て同じ補助が行われます。
患者からしても、安定したサポートを得られるので負担が少なくなります。
SIMVより患者に優しい呼吸器設定ができるので主流はやはりA/Cですね。
・基本的にSIMVよりA/Cが有利
VCV(Volume Control ventilation) vs. PCV(Pressure Control Ventilation)
さらに、A/CやSIMVは一回換気量を直接設定するか、圧で設定するかを決めることになります。
VCV: Volume Control ventilation(従量式)は設定項目に「一回換気量」があり、PCV: Pressure Control Ventilation(従圧式)は「吸気圧」の項目があります。
比較しながら勉強していきましょう。


まず注目してほしいのがフロー(吸気流速)の波形の違いです。
VCVは四角で、PCVは三角ですね。我々の呼吸はどちらに近いでしょうか。
吸い始めが勢いがよくて終わりに向かってゆっくりになりますよね。
つまりPCVの方が生理的な呼吸に近くて、患者も快適なのです。
その他の違いは下記です。

どちらの設定も一長一短です。
VCVだと、気道抵抗が上昇(患者の息こらえ等でも)すると設定した換気量を吸わせるために高圧がかかってしまいます。
これは肺傷害的(後述)な換気になってしまいます。
PCVだと、同様のことが生じた場合一回換気量が下がってしまいます。
これが続くと高CO2血症になりますね。
短所を理解した上でどちらにするかを選択しましょう。
なお、慣習的に日本はPCVをアメリカではVCVを用いることが多いです。
・VCVもPCVも一長一短
・PCVのほうが患者は快適だし日本でもよく使われている
一回換気量とプラトー圧の選択
各モードを理解し設定したら、具体的に数字をいじっていきます。
何を目安に設定すればいいかを説明しますね。
一回換気量
通常、一回換気量は理想体重×6~8 mlを目指します。
過大な一回換気量は圧損傷や用量損傷(後述)の原因となるため、極力避けたいです。
これに呼吸数も設定して分時換気量を決めていきます。
成人はだいたい呼吸数が16/分、一回換気量は500mlなので、分時換気量は8000mlぐらいですね。
EtCO2やPaCO2を参考に呼吸数と一回換気量を設定します。
※肺保護戦略
ARDS患者においては一回換気量を理想体重×6ml以下にして、より肺保護的な呼吸器管理を行うこともあります。その際に生じる呼吸性アシデミアもpH=7.20程度までは許容します。呼吸器設定や深鎮静管理だけで一回換気量を抑えられない場合は短期間だけ筋弛緩を使うこともあります。
プラトー圧の設定

VCVモードにして吸気ポーズを押し、プラトー圧を確認します。
30mmHg以下になるのが望ましいです。
PCVでも、PEEP+PC>プラトー圧なので、PEEPとPC圧を足して30mmHg以下になればOKです。これが過大になると肺胞が過伸展してしまい、容量損傷を引き起こします。
・一回換気量は理想体重×6~8ml
・プラトー圧(PEEP+PC圧でも可)は30mmHg以下
PEEPの設定
PEEP: Positive End-expiratory pressureとは
PEEPとは日本語で呼気終末陽圧といいます。
我々は、息を吐ききった状態でも胸腔内に陰圧がかかっています。
陽圧の話をしているのに、陰圧?と思うかもしれません。
我々の呼吸は「陰圧換気」をしています。
胸郭が広がることで胸腔内が陰圧になり、空気が入ってくるのです。
ただ、「一般的な人工呼吸器」ではそのような呼吸様式が再現できません。
陽圧(空気を押し込むこと)で呼吸を再現しています。
その陰圧(息を吸う力)は、「胸郭が広がったままになろうとする力」や「呼気終末に声門を閉じる」ことで通常3-5cmH2Oかかっているとされています。
一方、挿管されている患者では声門が外界に開通しているため、我々が呼気終末に残していた「息を吸う力」が保てません。
そこで呼気終末に陽圧をかけてそれを再現できるように考えられたのがPEEP(呼気終末陽圧)です。
難しいかもしれませんが、「肺を少しだけ膨らませておく、完全にしぼんでしまわないために陽圧をかけておく」というイメージでいてください。
PEEPで得られるメリット
PEEPで得られるメリットは多数あります。
- 酸素化改善
- 肺リクルートメント、虚脱予防
- 肺コンプライアンスの改善
- 左室後負荷減少

◆酸素化改善
PEEPには酸素化の改善効果が期待されます。
虚脱(しぼんでしまった)肺胞が膨らむことにより、換気血流比(血流のあるところでしっかりガス交換ができているかどうか)やガス交換能が改善します。
◆肺リクルートメント・虚脱予防
肺胞が完全にペチャンコになったり、膨らんだりを繰り返すとそこに摩擦が生じて肺にダメージが与えられます(aterectrauma)。
呼気終末に圧をかけ続けることでペチャンコになることを防ぎます。
◆肺コンプライアンスの改善
風船を膨らますとき、膨らみ始めるときが一番息を吹き込みますよね。
これは肺胞でも一緒です。
なので、肺胞もある程度圧をかけっぱなしにすることで膨らみやすくなります。
肺が膨らみやすくなることを「肺コンプライアンスが良くなる」と表現します。
適切なPEEPをかけることは一回換気量の増加にもつながります。
◆左室後負荷の減少
左室後負荷はラプラスの定理で規定されます(画像参照)。
PEEPにより、胸腔内の肺が占める体積が増え、左室径が小さくなることで後負荷が抑えられます。
難しいですが、「心臓が楽になるんだなー」ぐらいのイメージで大丈夫です。
PEEPで起こり得るデメリット
PEEPで起こり得るデメリットも学んでおきましょう
- 静脈還流量減少
- 肺血管抵抗上昇/右室後負荷増加
- 肺胞過伸展

◆静脈還流量減少
PEEPにより右房圧が上昇することで静脈還流量が減少します。
高度な脱水や、心原性・閉塞性ショック等、ある程度前負荷(心臓に入ってくる血液)が必要な病態の時にデメリットとなる可能性があります。
しかし、心不全で肺うっ血をきたしているような病態では静脈還流量が減ることで心臓への負担を軽くしてくれるため大きなメリットとなります。
◆肺血管抵抗上昇/右室後負荷増加
右心の後負荷が増加することで右心機能が低下した症例では不利になる可能性があります。
◆肺胞過伸展
これは後で詳しく解説しますが、PEEPをかけすぎると肺胞がパンパンになり、肺胞にダメージが加わってしまいます(容量損傷)。
PEEPの設定方法
前述しましたが生理的PEEPは3-5cmH2Oなので、特殊な病態がない限りはそれ以上に設定してください。
設定方法はこれは一番!というものは定まっておらず、色々な指標をみて総合的に判断します。
指標の1つとして、肺コンプライアンスが最も良いPEEPに設定する。というのもあります。
そこに体格や病態を加味してPEEPを設定していきます。
体位によっても至適PEEPは変わります。
他には
- 経肺圧を指標にする。
- 血液ガスを使う。
- PEEP/FIO2 tableを使う。
- EIT: Elelectrical impedance tomographyを使う。
といったものもあるので簡単に紹介しておきます。
◆経肺圧を指標にする。

食道で圧を測定できる特殊な胃管を挿入し、食道内圧を測定します。
「経肺圧(肺にかかっている圧)=気道内圧-食道内圧」であり、これが陰圧にならないように設定します。
肺にかかっている圧が陰圧ということは肺胞はペチャンコになっているということですからね。
◆血液ガスを使う。

PEEPを変えて血ガスを測り最も酸素化のいい所を用いる方法です。
心拍出量の影響(高いPEEPが心拍出量を下げる)を受ける可能性があり、高いPEEPのときに酸素化を過小評価してしまう可能性があります。
◆PEEP/FIO2 tableを使う。
FIO2がこのぐらい必要な患者はPEEPこのぐらいいるだろう、と表にしたものです。
酸素需要に応じてPEEPを設定します。個々の患者の病態や体格は反映できません。

◆EIT: Elelectrical impedance tomographyを使う。
電極を用いて肺の含気を可視化する技術。導入している施設は限られます。
また、電極のベルトを胸にまくのですが、エコー用のゼリーを大量に塗るのでもれなくベトベトになります。
繰り返しますがこれが一番!という指標はありません。
ベッドサイドで病態と患者の状態を考えながら検討してください。
PEEP設定の指標に正解はない!あらゆる指標を参考に適した設定を考えなければならない!
圧による肺傷害と容量による肺傷害
人工呼吸器管理を行う上で、肺に優しい設定をすることを心掛けなければなりません。
風船も過度に膨らむと破裂しますよね(肺胞過伸展)。
肺の虚脱もaterectraumaを招くため避けたいですね。
また、肺胞は場所によって重力の受け方も異なり、コンプライアンス(柔らかさ)も様々です。
下の画像を見ていただけると想像しやすいかもしれません。

上の図で言えば、過剰なプラトー圧は腹側の過伸展を招くかもしれませんし、過小なPEEPは背側の肺胞虚脱を招きます。

刻一刻と変わる患者の状態に合わせて、この丁度いいところを探すのがICU医の仕事です(もちろんそれだけではないですが)。
病態や患者の状態を理解した上で各呼吸器設定を行いますが、ひとまず
- 過伸展を防ぐためにプラトー圧や一回換気量を制御する
- 肺胞虚脱を防ぐために適切なPEEPをかける
この二点を意識しながら呼吸器をさわってみてください。
突然一回換気量が下がったらDOPEの確認
低換気になると一気に酸素化が下がって怖いですよね。
そしてすぐに徐脈→心肺停止に至ります。
まず、「この記事を読んでいる方はすぐに医師か上級医を呼びましょう。」
そして徒手換気に切り替えてジャクソンリースやBVMで換気します。
同時に喘息などの原疾患の増悪がないか検討します。
また、DOPEを確認します。
- D:Displacement (チューブ先端の)位置異常
- O:Obstruction (チューブ等の)閉塞
- P:Pneumothorax (緊張性)気胸
- E:Equipment failure 装置の異常
DOPEではなく「いきつめ(息詰め)」と覚える方もいるとのこと。
い→位置異常 き→気胸 つ→つまり(閉塞) め→メカニズム(装置)
突然一回換気量が下がったら、まず医師や上級医を呼ぶ!
その上で徒手換気に切り替えて、原疾患の増悪やDOPEがないか確認!
まとめ:人工呼吸器の基本的な設定をすることは簡単
人工呼吸器の基本的な設定をすることは簡単です。
しかし厳密に管理するのは頻回なベッドサイドでの観察が必要不可欠です。
また、次の記事で紹介しますが細かな非同調に気付き対応することが、予後にも影響するため重要です。
患者の状態や呼吸器設定の評価を頻回に行って、少しでも患者に優しい管理を目指しましょう!
質問やご指摘があればお問い合わせください!
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さらにマニアックな世界に足を踏み入れたい方は【少しマニアック】人工呼吸器の非同調【気づき、対応して予後改善へ!】もどうぞ!


2022/8/6販売スライドの記載修正と画像修正を行いました。
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